Optimization|食欲の適正化

本来、入力と出力はイコールで結ばれるはずである。

Hiroki Asano, 2024

人間というのは本来、痩せるようにも太るようにも出来ておらず、標準の体型を保てるように出来ている、と考えています。これは車の運転と同じ。消費したガソリンの量だけ給油できるようになっています。10消費したら、10摂取できるというのが本来の姿です。ですから、カロリー計算などしなくても、自動的に食事の量も決まるものなのです。

ところが、その法則が常に通用するわけではありません。ほとんど動いていないにも関わらず「食べれてしまう」のが良い例です。そうした状態が続いた結果、太ってしまうわけですから。

これは体にとっては異常事態なわけですが、それを引き起こしている主な原因が「ストレス」です。人間関係や仕事のトラブル、SNSでの不快な経験、将来的な不安など様々です。このように私たちは様々なストレスと隣り合わせで生きています。慢性的なストレスに曝されていると、本来は法則に則っていたはずの食欲にも影響が出てきます。

本来は10で満足できるはずなのに、12とか15とか食べないと満足できない状態になってしまう。あるいは自分の中では10で抑えているつもりが、12とか15になってしまっている場合もある。自覚できていない場合もあるのです。それが「そんなに食べていないのに太った」「気付いたら太ってた」ということに繋がるのです。

「食べ過ぎ」「食事制限が必要」「痩せるなら食事」というように食事にアプローチする考え方が一般的ですが、それは海面から突き出たほんの一角の氷山を眺めているようなものです。問題の本質は、海面下に隠れているわけですから。深く、そして大きく。

そこで登場するのが「運動」です。あまり語られていないこと、というよりこれは僕が発見したことですが、運動の持つ効果の一つが「正しい食欲が身につくこと」です。正しい食欲というのは、先に述べたように、10消費したら10摂取できるようになる(無意識)、ということです。カロリー計算などしなくても、身体に必要な食事量が脳内で自動計算されるのです。これを「食欲の適正化」と呼ぶことにしました。仮に12食べたとしても「あ、少し食べ過ぎたな」ということがきちんと感覚的にわかる。逆のパターンもそうです。8しか食べていないと「マイナス2くらいだな」ということもわかってきます。一度の食事でもそうですし、週単位でもそうした「ズレ」を感知し、補正する機能が身についてきます(というより本来は備わっているはずです)。

すなわち体型管理の理想は、自分でレコーディングしたり、カロリー計算をするのではなく「自動的に計算されること」なのです。人間の身体は精巧に作られていますので「正しく」作動していれば、特に意識しなくても体型は良い状態に保たれるのです。

ちなみに、たまに旅行に出掛けて食べる過ぎるということは誰にでもあります。ただし「太るのも継続」ですから、短期間のうちに食べ過ぎたとしても、体重の増加分はあくまでグリコーゲンや水分の貯留によるもの。それは太ったのではなく「増えた」だけですので誤解しないようにしてください。体脂肪を増やすには、継続的にカロリーオーバーの食生活を続けなければなりませんので、思いのほか難しいのです。

そして、もう一つ気を付けていただきたいのが「運動の質」です。これは無酸素運動や有酸素運動、あるいはピラティスやヨガ、ランニングのうちどの運動がいいか?という話ではありません。いずれの運動にしても、終わった後に「もう動きたくない」と思うような運動は「質が低い運動」ということです。これは僕の中の「運動の定義」からは外れます。それは運動ではなく”強制労働”だからです。嫌々体を動かすくらいであれば、それこそストレスになりますので、動かないほうが健康ですらあると思うのです。運動の目的は”心身ともに良い状態”を作ることなので、それがストレスになるようでは運動とは呼べないのです。

「こんなに運動頑張ったのに、なにも食べられないなんて… 」というのは不健全なダイエットの代表例のようなものですが、それが常識となってしまっているが故に盲信的になってしまっている方が多いのです。

運動というのは自分に鞭を打っておこなうものではありません。これは食欲の話とリンクしますが、運動というのは「お腹すいた!」「美味しい!」「ごはんってこんなに美味しかったんだ!」という、私たちが忘れていた大切な感覚を思い出させてくれるものなのです。

運動による直接的なカロリー消費ではなく、「食欲の適正化」という間接的な仕組みによって痩せるのである。

Hiroki Asano, 2024
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