Inner Unit|腹筋は「膣で水を吸い上げる」ように使う

すべての動きはセンター (コア)から起こるという原理はピラティスで共通のテーマであり、すべてとは言わないが、多くのエクササイズでコアの筋群を動員することに重点が置かれる。もちろん、運動は深層の支持機構がなくても可能であるが、深層からの支持、保護、効率的な機能は得られないだろう。

Rael Isacowitz(BASI Pilatesの創始者)

ピラティスは「インナーマッスルを使う」「体幹が鍛えられる」などとよく言われます。

これは決して間違いではないのですが、なんとなくピラティスの動きをしてみたり、動画を見て真似をしても、実際のところインナーマッスルはうまく使われません。むしろ、女性が大きくしたくない外側の筋肉(アウターマッスル)が発達してしまったり、単なるエクササイズで終わってしまうのです。

ピラティスが他のエクササイズと異なるのが「インナーから動く意識を持つ」ことです。インナーから動く意識を持ち、適切なタイミングで、適切な動きを行うことで、ピラティスの効果が最大限に引き出されます。

しかし、インナーマッスルというと、なんとなく「内側にある筋肉?」「鍛えると女性らしい身体になる?」くらいの認識の方も多いかと思います。今回は少し長くなりますが、ピラティスの根幹に関わるとても重要なことですので、このあたりをクリアにしていこうと思います。

*ブログの内容はあくまでお客様向けに発信しております。スタジオでお伝えしていることの復習用として参考にしてください。専門的な内容はできるだけ噛み砕くように解説しておりますが、分かりにくい部分に関しては、スタジオでご質問いただければ、お時間の許す限り、責任を持って説明しますのでお気軽にご相談ください。

目次

コア(体幹)の定義

まず、体幹が大事!体幹トレーニング!体幹がしっかりしてる!というように、体幹というワードはよく聞きますね。この体幹は「コア(Core)」とも呼ばれます。体の中心にあることからそう呼ばれています。

そして、コア(体幹)には「広義のコア」「狭義のコア」があります。

広義のコア:胴体(頭、手、足を除いた部分)
狭義のコア:
お腹の深層にある4つの筋肉

今回お伝えするのは「狭義のコア」のほうになります。そして、この狭義のコアのことを「インナーユニット」と呼びます。ちょうどお腹のあたりにあります。後ほど説明しますが、インナーユニットは「4つの筋肉」で構成されています。ピラティスではこのインナーユニットを正しく使うことが求められます。

ここで「インナーマッスルとインナーユニットってなにが違うの?」という点が気になりますね。インナーマッスルというのは、単に「内側にある筋肉」という意味なので、部位を問わず存在します。肩甲骨の内側にもありますし、股関節の内側にもあります。一方で、インナーユニットはお腹の深層にある筋肉のことだけを指します。つまりこうです。

お腹のインナーマッスル = インナーユニット

このように、厳密に言うとインナーマッスルとインナーユニットは異なるのですが、ピラティスでインナーマッスルと言ったら「インナーユニット」のことを指していると思ってください。

4つの壁で囲まれるインナーユニット

インナーユニット(JCCA公式HPより引用)

インナーユニットは4つの筋肉で構成される、とお伝えしました。

【上の壁】横隔膜(おうかくまく)
【前の壁】腹横筋(ふくおうきん)
【後の壁】多裂筋(たれつきん)
【下の壁】骨盤底筋群(こつばんていきんぐん)

いきなり専門的な用語がドドドっと出てきました。すべてを覚える必要はありませんが、インナーユニットは「4つの壁で囲まれている」ということを覚えておきましょう。イメージは、筒状の海苔の缶でも、プリングルスの小さい缶でも(サワークリーム & オニオンが好きです)、四角形の箱でも、一軒家でもなんでも結構です。とにかく、4方向から囲まれているということを覚えておいてください。

*普通は、上の壁は「屋根」、下の壁は「床」と言いたいところですが、理解促進のためご容赦ください。

インナーユニットの役割と機能

インナーユニットは4つの壁で囲まれているということがわかりました。そんなインナーユニットの主な働きは『体を安定させること』です。

骨格模型を見ると、ウエスト部分(肋骨と骨盤の間)は背骨しかないことがわかります。これは家で例えると、柱一本で支えているようなもので、本来はとても不安定な構造をしています。

しかし、それだけでは不安なのでインナーユニットがサポートしているのです。4つの壁(上下前後)によってこの部分を補強しています。

しかし、運動不足や加齢によってインナーユニットの働きは低下していきます。すると、背骨が頑張らなくてはなりませんが、それにも限界があり、やがてキャパオーバーになります。そうして起こるのが「腰痛」です。反り腰や猫背なども、インナーユニットがしっかり働いていないことが原因の一つです。そして、体は全身つながっていますので、腰だけでなく股関節や膝、足などにも影響が出てきます。

つまり、インナーユニットを活性化させることは、体の土台を作るということですので、優先順位としては高くなります。逆に、土台ができていない状態でエクササイズをおこなっても、エクササイズの充分な効果が得られないということです。

ちなみに、インナーユニットのことをピラティスでは『パワーハウス』とも呼んでいます。力を生み出す根源であると考えられているからです。ピラティスの創始者であるジョセフ・H・ピラティス氏は次のように考えていました。

『パワーハウスは体の肉体的な中心であり、そこからすべてのピラティスの動きが生じるべきだ』

Joseph Hubertus Pilates

ピラティスのエクササイズ中は、パワーハウスを働かせ続けるのが理想です。中心が安定することで『軸』ができ、軸ができると手や足、肩など他の部分がリラックスできるからです。それが「しなやかさ」に繋がってきます。逆に、中心が安定していないということは、手や足、肩などに無駄な力みが生じ、動きが固くなるということです。なので、ピラティスのエクササイズ中は、パワーハウスすなわちインナーユニットから力が生み出されることを意識するようにします。

コルセットの役割をする「腹横筋」

インナーユニットを構成する筋肉は4つ(横隔膜・腹横筋・多裂筋・骨盤底筋群)ありました。どの筋肉も重要なのですが、特に重要なのが『腹横筋(ふくおうきん)』です。

腹横筋はコルセットのようにお腹をぐるっと一周している筋肉です。コルセットはどんな時に体に巻くか?と言えば、腰痛の時ですね。お腹まわりを安定させるために使います。この腹横筋はいわば「天然のコルセット」です。正しく機能すれば背骨を安定させてくれますし、逆に、衰えると背骨がグラつくようになり腰痛などの原因となります。

実は腹筋というのは「4層構造」になっており、表面から順に「腹直筋外腹斜筋内腹斜筋腹横筋」となっています。腹横筋は一番奥にあるので「お腹のインナーマッスル」と呼ばれているのです。

腹筋というと、みなさんが想像するのは「腹直筋(ふくちょくきん)」のほうです。いわゆるシックスパックの筋肉です。表面にあるのでアウターマッスルになりますが、ピラティスではあまり使わないようにします。アウターに頼ってしまうと、インナーが使われなくなってしまうからです。

ちなみに、腹横筋はコルセットの役割があるとお伝えしましたが、腹部の安定だけでなく「ウエストのくびれ」にも大きく関わってきます。コルセットを締めれば締めるほどウエストが細くなるように、腹横筋が正しく機能することで、ウエストは細くなっていきます。(体脂肪が減るわけではない)

逆に、腹直筋や外腹斜筋のように表面にある筋肉は、鍛えれば鍛えるほど大きくなりますので「ウエストを細くする」という点においてはマイナスに働きます。

今回はくびれの話がテーマではないので詳細は割愛しますが、ウエストを細くする要素は主に2つあり、①体脂肪を減らす ②腹横筋を活性化させることです。①についてはウォーキングやランニングなどの有酸素運動がほぼ必須です(食事制限ではあまり落ちない)。そして、②については今回解説しているようにピラティスが有効です。

なので、くびれをつくるには有酸素運動とピラティスを組み合わせておこなうことがオススメです。

コアをセットする2つの方法

いよいよ実践編です。インナーユニット、特に腹横筋を活性化させる方法を解説します。2種類ご紹介しますので、自分がやりやすい方法で試してください。

パンツのゴム紐からお腹を引き離すように(腹横筋からのアプローチ)

一つ目は、パンツ(下着とウェアどちらでもOK)のゴム紐からお腹を引き離すようにイメージする方法です。

仰向けに寝た状態で、立て膝になります。骨盤はニュートラルの状態をキープします(腰に手のひら一枚が入るくらい)。息を吐きながら、下腹部をペタンコにするように薄くしていきます。おへそを背骨に近づけていくようなイメージです。

この下腹部というのがポイントになります。お腹といっても面積が広いので、全体を凹ませるというよりは、おへそより下のほう(パンツのゴム紐のあたり)を凹ませるように意識してください。

ピラティスや解剖学の知識がある方は、左右の腰骨(ASIS:上前腸骨棘)にピーンと張られたヒモをイメージし、そのヒモからお腹を引き離すようにイメージしてみてください。

この下腹部を凹ませる方法を「ADIM(Abdominal Drawing in Maneuver)」といい、一般的にはドローインという名前で知られています。ピラティスのエクササイズ中はこの状態をキープすることが理想です。

日常生活で常に意識的に締め続ける必要はないということだけ注意してください。それは常に重りを持ち続けているようなものです。腹横筋も筋肉ですので、ある程度強くなると、自然にコルセットを巻いたような状態になります。気付いた時に「10秒キープしてリラックス」という動きを繰り返すくらいの気持ちでOKです。重力の関係で仰向けの姿勢が一番ラクでですが、うつ伏せや四つ這い、最終的には立った状態でもできるようになるのが理想です。

膣で水を吸い上げるように(骨盤底筋群からのアプローチ)

個人的に一番イメージしやすいのはこちら。膣で水を吸い込むように力を入れると、下腹部も同時に凹むのがわかるかと思います。力強く”ギュッ!”と吸い込むのではなく「キュ〜〜〜ッ」というように優しく長く吸い込むようにすると良いです。上手にできると、お腹は膨らむ方向ではなく、パンツのゴム紐から離れていくようにペタンコになるかと思います。

ピラティスでは「骨盤底筋を引き上げましょう」と言われたりもします。ついでなので説明すると、骨盤底筋を使うと、加齢や出産に伴う「尿漏れ」の予防にもなります。骨盤底筋が弱くなると膣や尿道の締まりが悪くなり、尿漏れが起こりやすくなります。インナーユニットを活性化することで、尿漏れの悩みも解決することができるのです。まさに良いこと尽くめ。

1940年代に米国の産婦人科医アーノルド・ケーゲルが開発した「ケーゲル体操」が有名ですが、最近では「膣トレ」や「骨盤底筋体操」と呼んだりもします。インナーボールという、重りの入ったシリコン製のボールを膣に挿入して鍛える方法は、今では一般的になりました。知人女性でも何人か使っています。全然恥ずかしいことではないですし、Amazonでも手に入るので、インナーユニットを鍛える一つの手段として活用してみるのもありだと思います。

男性の場合は、キンタマを引き上げるようにイメージします(”睾丸”と書くべきでしたね)。あるいは会陰(えいん:キンタマと肛門の間)を引き上げるイメージでも大丈夫です。すると、女性と同じように下腹部が凹むのが分かるかと思います。

腹横筋を触ってみよう

腹横筋のスイッチがONになると、下腹部がしっかり凹むのが観察できます。あるいは、腰骨の出っ張り(ASIS:上前腸骨棘)から内側に2.5cm・下方に2.5cmの部分(ピンクの丸)を優しく押すように触れた時に「張りのある硬さ」になります。もしこの部分が柔らかい場合、腹横筋がしっかり働いていない可能性があります。

よく「お腹に肉が乗っていてよくわからない」という方もいますが、その場合でも、もちろん表面は柔らかいのですが、優しく押すように触れることで深層部にある腹横筋の動きはきちんと感じることができます。

最後に

インナーユニットは普段の生活で意識することがありませんし、体の内側にあるので、はじめのうちは意識することが難しいかもしれません。スタジオでも初めからできる方はほとんどいません。ただ、インナーユニットが使えないからといってピラティスの効果がまったくないというわけはありませんのでご安心ください。

自分では正しくやっているつもりでも出来ていなかったり、まったく感覚がわからないという方も多いので、スタジオでは実際に僕がデモをお見せしたり、お客様の下腹部に触れさせていただきながら確認しています(許可を得た場合のみ)。あせらずにゆっくり取り組んでいきましょう。

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