Heinrich’s Law|背景にあるもの

「1件の重大事故の背後には、重大事故に至らなかった29件の軽微な事故が隠れており、さらにその背後には事故寸前だった300件の異常、いわゆるヒヤリハット(ヒヤリとしたりハッとしたりする危険な状態)が隠れている」

ハインリッヒの法則

『ハインリッヒの法則』とは、労働災害の分野でよく知られている事故の発生原因についての法則です。一つの大きな事故の背景には、多くの些細なミスが隠れているという因果関係について説明したもので「1:29:300の法則」とも呼ばれています。

これはダイエットも同じです。

「太った」という重大な出来事の背景には多くの要因が潜んでいます。「食べすぎ」「運動不足」「加齢」「遺伝」「ストレス」など、太る原因は様々です。しかし、それらの”単一の要素”が問題になることはほとんどありません。太る原因というのは、複合的すなわちネットワークのように絡み合っていることが多いのです。

多くの人は「食べすぎてるからだよ」「もっと運動したほうがいいよ」「歳だからしょうがない」「太りやすい体質なんだよね」という具合に、”単一の要素”にしか目が行きません。しかし、問題はそうではないことがほとんどなのです。

単一の要素にしか目が行かないとなにが起こるか。食事を例にしてみましょう。ラーメンばかり食べている、朝から菓子パンを頬張っている、毎晩揚げ物を食べている、晩酌が辞められないなど、その人の食生活に問題があると考えてしまうのです。

そこで「食事制限」「食事改善」を始めますね。菓子パンではなく糖質オフのパン、揚げ物ではなくサラダチキン、お酒であればハイボール、夕飯の代わりに置き換えプロテインなど。これは一見正しいアプローチに見えますが、問題はそんなに単純ではありません。

「太った」という絡まった糸をほどくのに、食事制限という部分を引っ張ることにより、糸がほどけるどころか逆に硬く結ばってしまう可能性もあるのです。言い換えるなら、”痩せる”という目的を達成するために好きな食べ物を我慢した結果、ストレスが溜まり、食欲が爆発してしまうということです。そして、ほとんどのケースでそれは起こります。

もしかしたら運良くほどけたので、これにて一件落着!と思えても、どこかに”コブ”ができているかもしれません。痩せたとしても「摂食障害の兆候が顕れる」「お米を食べると太ると感じてしまう」「食品添加物に異常なほど敏感になる」「他人の食事に対して攻撃的になる(そんなの食べたら太るよ!)」「宗教っぽくなってしまう」など、どこかに”トゲ”のようなものが生える人も多くいます。これは私の経験則ですが、そういう人たちほど美や健康を害してしまう傾向があります。果たしてそれが「ダイエットの成功」と呼べるかどうかは疑問です。

私はここがプロとしての腕の見せ所だと思っています。絡まってしまった糸に対し、どの糸とどの糸を緩めれば『痩せるのか』を多角的に分析し、順序立てて考えていく必要があります。そして大切なのは「再び絡まないようにするにはどうすればいいのか」という未来の部分まで考えていくことです。

単一の要素にしか目が行かないというのは、1件の重大事故のうち「1つの背景」しか見えていないということです。その人の性格や育ち、兄弟構成、家庭や職場環境、夫婦関係、交友関係、体質、気質、ストレス耐性、好き嫌い、主義や思想など、様々な要因が複雑に絡み合っています。もちろんそれら全てを知ることは現実的ではありませんが、大切なのは、ダイエットと一括りに言っても物事はそんなに単純ではないということです。

努力することは大切ですが、まずは取り組むべき課題とその優先順位を明確にし、「努力の方向性」を見誤らないようにすることです。どんな分野でも言えることですが、最短ルートで進むよりも少し遠回りしたほうが結果的にうまく行く、というケースは往々にしてあります。そしてダイエットに関してはそれがよく当てはまる代表例です。

「あんなに食べてるのに細くて羨ましい!」という声に対して、あなたにはいくつの”背景”が見えてきますか?

目次