関心の輪(Circle of Concern)・影響の輪(Circle of Influence)

変えられるものを変える勇気を、変えられないものを受け入れる冷静さを、そして両者を識別する知恵を与えたまえ

(米国の自由主義神学者 ラインホルド・ニーバー)

心と体を守るためのマインドセットシリーズです。

いつシリーズ化したのか不明ですが、ストレス社会から心と体の健康を守るためのマインドセット、すなわち「考え方」について思ったことを書いています。僕が大切にしているマインドセットは多くありますが、その中でも特に強力なものが『関心の輪』と『影響の輪』という概念です。

これはまだ僕が人生を右往左往している頃(今もですが)に出会った、世界的ベストセラーのビジネス書『7つの習慣』(スティーヴン・R・コヴィー著)で紹介されている考え方です。初めて読んだ時はまだ社会人経験もないケツの青い学生でしたので、なるほどね、くらいにしか思いませんでしたが、歳を重ね、多くの人に出会い、様々な経験を積み重ねていくうちに、その大切さが身に沁みて分かるようになりました。

私たちは世の中や身の回りで起こっているさまざまなことに関心を持ちますが、その関心の対象を大きく2つに分類すると「自分の力で変えられないもの」と「自分の力で変えられるもの」に分けられます。

例えば、明日の天気、物価の上昇、芸能人の不倫、毎月の給料、過去の失敗、他人の態度や考え方などは、自分の力ではどう頑張っても変えられません。このような概念を「関心の輪」と呼びます。

一方、お金や時間の使い方、食べ物、生活習慣、健康管理、交友関係、SNSの使い方、仕事への取り組み方、自分の態度や考え方などは、自分の力で変えることができます。これを「影響の輪」と呼びます。

自分が時間やエネルギーの大部分を、この二つの輪のどちらに集中させているかを考えることにより、主体性の度合いをよく知ることができる。

主体的な人は、努力と時間を影響の輪に集中させ、自らが影響できる事柄に働きかける。彼らの使うエネルギーは積極的なものであり、その結果として、影響の輪が大きく広がることになる。

一方、反応的な人は関心の輪に集中している。他人の欠点、周りの環境、自分のコントロールの及ばない状況などに集中する。これらのものに集中すると、人のせいにする態度や反応的な言葉、あるいは被害者意識をつくり出すことになる。反応的な人は消極的なエネルギーを発生させ、影響を及ぼせる事柄を疎かにするので、影響の輪は次第に小さくなる。

『7つの習慣』 スティーヴン・R・コヴィー

悩みやストレスを抱えやすい人を観察すると、必ずと言っていいほど、自分の力では変えられないものに不満や憤りを感じています。「あいつが悪い」「どうしていつも無責任なんだろう」「〇〇なんだからもっとこうしてほしい」。このように考え方や言葉遣いがどうしても“他責思考”になりやすくなります。主語も「あいつが」「旦那が」「上司が」「会社が」「国が」のように、自分以外の人が登場することが多くなります。

そんなこと言っても自分は悪くない!という気持ちは分かりますが、ここで重要なのは相手がどうこうよりも、それに対して「自分がどう反応するか」です。愚痴や不満を溢したり、憤りを感じている時間とエネルギーがあるのであれば『自分の見方や行動』を変えたほうが賢明ですし、逆に言えば、自分の見方や行動を変えるしか解決策がないからです。

給料や物価に不満があるのであれば、国や会社のせいにするのではなく、何かしらの形で自分の収入を増やすか、お金の使い方を見直すしかありません。体型に満足していないのであれば、食事の欧米化や友人の誘いのせいにするのではなく、普段の食生活を見直すか、時間を作って運動するしかありません。テレビ番組やSNSでネガティブなニュースを目にして不快な気持ちになるのであれば、それらの関わり方を自分で見直すしかありません。

一番の問題は「自分がどうアクションを起こすかを考えられないこと」なのです。僕の場合は、自分の力で変えられないことに対してはいつも「どうでもいい」と考えています。いくら不平不満を溢したところでなにも変わらないからです。これは決してネガティブな態度ではなく、自分で自分の反応を選択するという極めて能動的な行為だと思っています。目の前の出来事に対して、これは影響の輪に入るのか、それとも関心の輪に入るのかをしっかりフォルダ分けしています。

自分の意思決定を大切にすると、人生が主体性を帯びてきます。すると主語が「私は」「俺は」のように自分自身が登場することが多くなります。これは決して自己中心的やナルシシズム的な話ではありません。自分がどう反応するかを、自分の責任において決定しているからです。逆に言えば、他責にしやすい人ほど自分の都合しか考えていないことのほうが多いような気がします。主体的に生きることと、自己中心的に生きることは全く性質が異なるのです。

また、ストレスの背景には必ず「人」の存在があります。最近イライラしたことを思い返してみてください。必ず誰かの存在がそこにあるはずです。「他人は変えられない、変えられるのは自分だけ」とよく言われますが、やはりそれも同じです。他人という変えられない存在に対してエネルギーを注ぐよりも、自分の見方や行動を変えたほうが確実です。

「あいつうざい」「なんでいつもそういう言い方しかできないの」「また馬鹿みたいなことしてる」という気持ちはとてもよく分かります。けれど、自分の力でどうにもならないことにいちいち反応していたら頭の中が負の感情で満たされてしまいます。

脳というのは超精密なコンピューターのようなもので、このように関心の対象をフォルダ分けできないと、すぐにゴミが溜まっていきます。そして、動作が遅くなったり、アプリケーションがクラッシュしたり、色んな不具合が発生するようになります。まさに体がそうですね。身体がクリーンでも、脳がクリーンでない人は多いと感じています。そして脳がクリーンでないと、やがて身体にも影響が出てきます。ストレスで体調を崩してしまうのがその典型です。

なので、もし自分の力でどうにもならないことだと分かったら、どんなに腹の立つことが起きても「あ、そう」「へぇ」「そうなんだ」くらいに思っておくことです。ムカつきますけどね。あまり長期化させないことです。

主体的な人生を送れるようになると、広い視点で物事を考えられるようになりますし、なによりストレスが激減します。本当に自分がやりたいことに集中できますし、エネルギーを全力投下することができます。不平不満を溢してもなに一つ成長しませんので、ハッキリ言って時間の無駄です。その時間を有意義なことに投資したほうが、豊かな人生になることは間違いありません。

なので、まずは『関心の輪』と『影響の輪』のフォルダ分けを自分でできるようになることです。初めはどこか消極的に感じたり、負けた気がしてしまうかもしれません。けれど、先ほどもお伝えしたように、主体的に生きるということは、自分で自分の反応を選択するという極めて能動的な行為なのです。そこに勝ち負けはありませんし、良い悪いもありません。自分の責任で自分の反応や思考、生き方をコントロールできるのです。どうか穏やかな生活を送れますように。

主体性は人間の本質の一部である。主体性という筋肉は、たとえ使われずに眠っていても、必ず存在する。

『7つの習慣』 スティーヴン・R・コヴィー
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