Mechanoreceptor|世界一歩き方が汚いと言われる日本人

ある器官をよく使えば発達し、使わなければ萎縮する。

ラマルクの進化論

海外の方でも歩き方が汚い人はいますので、世界一かどうかはわかりませんが「日本人の歩き方が汚い」のは事実です。

街を歩いている時、駅の階段を登っている時、前を歩いている人の足元を見ると、極端にガニ股や内股であったり、左手と左足が同時に前に出ていたり右、足のつま先だけ外側を向いていたり、膝が曲がったまま歩いていたり、靴の内側だけクッションが潰れていたり、体が左右に揺れていたり、大きな足を立てて歩いていたり、足裏をこするように歩いていたり、実にさまざまです。

綺麗に歩いている人をほぼ見ません。むしろ、綺麗に歩いているほうが妙な視線で見られてしまうほどです。

どうしてここまで歩き方が汚いのか、ということを語りだすとキリがありませんので、今回は、運動の専門家として僕が感じていることを一つ書きます。

まず、体には「使えば発達し、使わなければ衰える」という不変の原則があります。脳や筋肉は使わなければ衰えていきますし、逆に何歳になってもそれらを積極的に使うことで機能は維持あるいは向上させることができます。

このままではマズイということで運動を始めるのはとても良いことなのですが、意外と盲点になっているのが「足裏」です。足裏にはメカノレセプター(Mechanoreceptor)と呼ばれるセンサーが多く存在します。あまり聞きなれないワードかと思います。

このセンサーはどんな働きをしているのかと言いますと、足裏がキャッチした情報を脳に伝達し、体のバランスや姿勢をコントロールしています。

足裏というのは地面との唯一の接地点です。地面の凹凸や傾斜、硬さなど、多くの情報を足元から得ているのです。「地面がデコボコしているな → 足をひねらないようにしよう」「地面が傾いているな → 転ばないように姿勢を立て直そう」「地面が柔らかいな → 強く踏まないようにしよう」というように、無意識のうちに体をコントロールしています。

では、メカノレプターの働きが衰えるとどうなるか? 転びやすくなったり、自分がどんな姿勢で立っているのか分からなかったり、無駄な力で地面を踏んでしまったりするのです。(足底アーチの低下や外反母趾の原因になるとも言われています)

本来、足は手と同じくらいの感覚があると言われています。手にもメカノレセプターは存在しますが、ペンを持ったり、スマホを使ったり、料理をしたり、日常的に使っていますのでそこまで衰えることはありません。例えば、卵を手に持つことを想像してみましょう。「力を入れすぎて割ってしまった」ということはないかと思います。これはメカノレプターが正しく機能しているので「このくらいの力で握ろう」ということが感覚的に分かるからです。

本来は足もそのくらいの感度があるのですが、革靴やヒール、厚底のスニーカーを履き続けることによって、メカノレセプターの機能が衰えていくのです。

そこでメカノレセプターを活性化しようということで近年注目されているのがベアフットシューズです。

お手製のワラーチ(ベアフット系の中では一番歩きやすい)
ビブラム5フィンガーズ(指が独立しているので地面の感触を掴みやすい)
ドラマ「陸王」で話題になったランニング足袋(足袋の街、埼玉県行田市まで買いに行った杵屋無敵)
シューズタイプのベアフットシューズ(イギリスのVivobarefoot)

クッション性がないことでBarefoot(裸足)つまり、裸足に近い感覚で歩くことができるシューズです。ワラーチのようなサンダル状のものから、5本指、足袋、シューズの形をしたものまで様々です。TPOによって使い分けています。

クッション性がないということは、一見するとデメリットのようにも感じられるのですが、実はそんなことはありません。指先の窮屈さから解放されますし、足首の可動範囲も広がりますので、とてもラクに歩くことができるのです。

すなわち、人間本来のナチュラルな歩き方ができるということ。

最近では、専門店に行くと自分に合った靴をフィッティングすることも可能ですが、あくまで「靴に自分の足を合わせている」ことに過ぎませんので、必ずしもそれがベストではないと思っています。ベアフットの場合は「靴が足に合わせてくれる」ことになるので、しっかり自分の足で歩いている感覚を養うことができます。

硬い靴や自分に合わない靴を履き続けることで、足がギプスのように固定されてしまうので「変な歩き方」が定着してしまうのです。それが膝や股関節、上半身へと波及し、悪い姿勢やぎこちない動きへとつながっていくのです。

ピラティスの優れた点の一つとして、裸足や靴下でおこなうことが挙げられます。マットやマシンに素足で乗ることによって、母指球や踵の位置、つま先の方向、自分の重心などを意識しやすくなるからです。特にリフォーマーのCalf Raises(踵の上げ下げ)をすると、10人中ほぼ全員が、足首がまっすぐ上がってきません。

良い例:足がまっすぐ動く
悪い例:足が曲がってしまう

ということは、ほぼ確実に日常生活の歩行でもそうした動きになっていることが予測できます。綺麗に足を動かすことができなければ綺麗な歩行にはつながりませんし、ランニングなどのより強度の高い運動をした時に、怪我をしたり、非効率な動きとなってしまいます。それでも、普段は何も意識していなかった足元に意識を向けてあげるだけで、改善への第一歩となります。

ベアフットシューズの話に戻りますが、興味のある方は、騙されたと思って一度試していただきたいです。あらゆるランニングシューズに数十万円以上費やして「自分の足に合うシューズ」を探す冒険に出ていましたが、結局、本当に自分の足に合うのは「自分の足」でした。

奥武蔵ロングトレイル35km完走
京都グランドトラバース 60km完走
富士山登頂

ということで、数年前から僕はランニングや山登り、トレイルランニングのレースに出る時は、すべてワラーチかベアフットシューズにしています。理由はメカノレセプターの活性化以外にも、疲労の軽減や転倒予防、ヒールストライク(踵接地)の回避など、様々ですので、よろしければ以下の記事を参考にしてください。

ワラーチは簡単に作ることができますが、もし敷居が高いと感じる場合は、「XERO SHOES」と呼ばれる既製品タイプのものも販売されていますのでチェックしてみてください。(立川の石井スポーツで取り扱っていました)

あとは、個人的に取り入れているのが「青竹踏み」です。古来から行われている健康法ですが、東洋医学的な「〇〇のツボを刺激する」といった目的ではなく、硬くなった足底の筋肉を柔らかく保つためや、足裏に刺激を入れる目的(センサー感度を高める)で行なっています。プラスチック製ではなく竹でできたものがおすすめです(ハンズでも売っています)。

慣れてくると気持ち良い

さて、一番重要なことですが、日本人が世界一歩き方が汚いと言われることに対してどうアクションを起こすか。

個人的には「日本人がどう思われようが、自分だけは綺麗に歩けばいい」と考えています。むしろチャンスです。まわりがそれだけ汚い歩き方をしているのなら、自分だけはきちんと背筋を伸ばして、真っ直ぐ歩いているだけで、歩き方が綺麗だと思われますから。

結局は意識の問題によるところが大きいと思いますが、もう一歩踏み込んで、体に負担が少なく、よりナチュラルで、いつまでも自分の足で歩けるような体や動きを目指していくということで、今回は足裏をしっかり使うことの重要性についてお話しさせていただきました。

大切なことなので、最後にもう一度繰り返して締めさせていただきます。

ある器官をよく使えば発達し、使わなければ萎縮する。

ラマルクの進化論
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