体づくりに関して『いついつまでにこうする』という考えた方は持っていません。
体づくりというのは長期投資のようなもので、日々コツコツ積み重ねていくものだからです。リスクを覚悟で短期的に投資するものではなく、ペースは遅いけれど、確実な方法で積み上げていく。それが体づくりです。
これはピラティスで体を整えていくこと、男性が筋肉をつけること、女性がダイエットに取り組むこと。すべてに共通していることです。ほとんどの人は何年もの”ツケ”をたったの数ヶ月で解消しようと試みます。そして、指導者までがそうした指導をすることで、そのような考え方や方法が社会全体に広まってしまう。
物事というのはそんなに都合よくできていません。1年かけて太ったなら、少なくとも1年かける覚悟は必要です。これは体のメカニズムというよりも「物事の道理」だからです。近道なんてものは存在しません。ダイエットに関して言えば、体重の増加と体脂肪の増加は必ずしも比例しないので(水分量の変化や生理周期の影響もあるため)、実際にはいつから太りはじめたのかを正確に把握することは難しいのです。年齢を重ねれば重ねるほど、いままでの蓄積分は多くなるので、一般的には時間が必要になります。
筋肉は20代前半を境に年々減少していきますが、その頃から意識的に運動する人はごく一部でしょう。というのも、筋肉は少しずつ減少するため、その変化に気付きにくいからです。毎日見ている自分の体は、一番変化に気づきにくいのです。体脂肪の増加も同じで、体重計にはなかなか反映されないものの、筋肉の減少と相まって少しずつ増えていきます。それがいよいよ自分の目に見えてわかるのが30代に入ってからでしょう。(ちゃんと気付く人はもっと早く気付きます)
その頃になって「太ってきた」と自覚する人が多いのですが、実はそんなことはなく、若い頃から何もしていなければ、少しずつマイナス方向へと傾いていたのです。なので、手遅れとは言いませんが、自分で気付いた頃には「かなり進行した状態」と考えるのが妥当です。
では、そこからどうするかが問題です。
まず「早くどうにかしたい」という近視眼的な方法を捨てることが第一歩です。くどいようですが、ある程度の時間をかけて衰えたり、太ってきた体が「早くどうにかなるわけがないから」です。10年、20年溜め込んできた課題が、数ヶ月で片付くわけがありません。
公正を期すためにお伝えすると、これは体作りの専門家である私たちも同じことです。決して体質的に恵まれているわけではなく、スタートラインは同じです。むしろ、スタートラインがマイナスの人のほうが多い気がします。私も元々は虚弱体質を克服するために運動をはじめましたし、ピラティスの創始者であるジョセフ・ピラティスも、元々は自身の病(くる病、リウマチ、喘息など)を克服するために運動を始めたと言われています。なので、決して特別な体の持ち主ではないのです。人に見えないところで、時間をかけて、地道な努力をコツコツ続けています。
そして、近視眼的な方法を捨てるべき理由として「自分を責めること」にも繋がるからです。
例えば、2ヶ月後に目標を設定するとどうなるか。夜にドーナツやアイスを食べたくらいで「やってしまった…」「ダメだな自分…」「意思が弱い…」となります。あるあるだと思います。
一方で「体づくりは一生続けるもの(長期投資)」と考えている人たちはどうでしょうか。好きなものを制限するのではなく、好きなものとの「付き合い方」を大切にしているのです。今まで積み重ねてきた莫大な貯金がありますので、ちょっとやそっと食べたくらいではビクともしませんし、むしろ、美味しく食べています。たまに暴食したとしても、どこかで調節したり、また運動をしますので、結果的には太るということはありません。
なので、両者では見えている景色が違うのです。
こちらが典型的なダイエッターの視点です。体づくりを期間限定で考えているので、ちょっとした変動にも一喜一憂してしまいます。実際には、右肩上がりの成長曲線を描いているのも関わらず、曲線が落ち込んだところばかりに意識が向いてしまう。
疲れにくくなる、むくみが減る、姿勢が良くなる、体が柔らかくなる、気持ちが明るくなるなどポジティブな変化があるはずなのに、「体重」にしか関心がないのでネガティブな気持ちになってしまう。先ほどもお伝えしたように、長い年月をかけて蓄積した体脂肪はすぐには減りませんので、体重計の数値として表れるのには時間がかかります。ですが、運動をはじめた以上、燃焼するための回路は以前よりも整っていますし、太った時と同じように自分では気づいていないだけで、少しずつ痩せていたりもします。
こちらが、体づくりは生涯続けていくものだと考えている長期投資組の視点です。先ほどの短期投資組と同じように努力を積み重ねているのですが、異なるのが「落ちる時があることを受け入れている」という点です。人間ですから、常に右肩上がりの線を描けるわけではありません。しっかり運動する時期があったりなかったり、たくさん食べる時期があったりなかったり、曲線が上下することは当たり前のようにあります。そのことを知っているので、短期投資組のように「どうしよう体重増えちゃった」「やった!体重減ってる!」などと一喜一憂して精神を摩耗させたりしないのです。
そして、なにより人生は長いです。ダイエットの期間を決めて、好きなものを生活から徹底的に排除したところで「ダイエットが終わったらどうせまた食べる」わけですし、その度にまたダイエットをはじめるという無限ループが繰り返されるわけです。そんなことをするくらいなら、排除するよりも「付き合い方」を見直したほうが良いのです。
運動も同じことです。ダイエットの期間を決めて、今日から3ヶ月頑張る!と決めたところで「ダイエットが終わったら運動しなくなる」わけです。そして、太ってきたらまた運動をはじめるという無限ループが繰り返されるのです。
そうした生き方を全否定するわけではありませんが、少なくとも僕はそういうことはしない。その昔、僕がパーソナルトレーナーとして活動していた頃も「〇ヶ月コース」というプランは設けていませんでした。◯ヶ月間トレーニングを頑張ったとして「その先どうするの?」という疑問が生まれるからです。継続しなければ“筋肉はすぐに衰える”というのは体の専門家である指導者が一番よく知っているはずなのです。
そもそも体づくりというのは『期間限定』でおこなうものではありません。
例えば、半年後に結婚式があるから、会社の健康診断が来月あるから、という場合は例外です。明確な目標があるので、その日のためだけに頑張ればいいからです(「もっと前からやっておきましょう」というのが本音です) モチベーションが全てそこに注がれるわけですから、そのイベントが終わり、やりたくもなかった運動から解放され、好きなものを自由に食べられるようになった身になれば、その後どうなるかは火を見るよりも明らかです。
短期間で痩せたダイエッターが「元の体重以上」にリバウンドするという悲惨な話は定番です。言ってしまうなら、そうしたダイエットはリバウンドするまでがテンプレートなのです。テレビ番組などのダイエット企画でも、痩せた事実ばかりが注目されますが、”その後リバウンドした事実”という都合の悪い部分は公開されないのです。僕はそうした指導はしませんので、幸いにも僕のお客様にはいませんが、よく耳にする話です。
「それじゃ、運動ってずっとしなきゃいけないんですか?」と聞かれることがあります。『Nothing Lasts Forever(永遠など存在しない)』です。今の健康を保ちたければ、ずっと運動は続けてください。いずれ人は死にますが、そこに至るまでの期間を伸ばすことや、より良い状態で過ごすことはできます。ただし、先ほどからお伝えしているように「運動をずっと続ける = 修行僧やアスリートのような生活を続ける」という意味ではありません。一般の人たちがそうした生活をしたところで身も心も持ちませんし、返って健康を崩しかねないからです。
近視眼的な考え方を捨てること。そして、成長の曲線は途中で上下しつつも、努力を継続している限り、右肩上がりの線を描いていると信じることです。
体づくりは『期間限定』でおこなうものではない。